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私はオロオロとしながら聞いた。
「え、でも樹くんが忘れられない相手がいるって言ってたじゃない、シングルマザーじゃないの?」
「…………それは、その」
「何でそんな嘘ついたの?」
「……この流れで普通感づくだろ……」
はあと大きなため息をついて彼は項垂れた。私は首を傾げてなお追求する。
「え、全然わかんないよ、ねえ分かるように説明してよ」
私は彼の服の袖を握って引っ張った。歯切れの悪い巧にやや苛立っていると、彼は突然顔を上げた。その顔面は真っ赤になっていて驚きで固まった。
巧は吹っ切れたように大きな声で言う。
「お前だよ!!」
「…………?」
「別に馬鹿みたいにずっと想ってたわけじゃない。普通に恋愛もしてきたし女とも付き合った。でもどうしても、あの手紙を捨てた相手の子は何してるかなって頭の片隅に残ってた」
「…………?????」
「そしたら偶然仕事で杏奈を見つけた。普通に声をかけようとしたら、杏奈が男は恋愛対象じゃないって噂を聞いたから。だから正攻法じゃ駄目だと思って」
「は、はあ…………」
巧は強く頭を掻いた。黒髪が揺れて飛び跳ねる。
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