2923人が本棚に入れています
本棚に追加
でもなってしまったものはしょうがない。
笑顔で巧を見つめる私を、彼はただ茫然として眺めていた。肝心なところで判断力ない奴!
「……杏奈、だってお前樹を」
「そんなの巧の思い込みだよ、ホテルの前で巧を見てショック受けてた私を励ましてくれてただけだし……あの時、本当に悲しかったから」
「悲しかった、って」
「出て行かないよ。私は巧には他に好きな人がいるんだって思ってたから辛かったわけで……変な嘘つかないでよね馬鹿! ややこしくなったじゃん!」
私がそう言い終わったと同時に、巧が突然力強く私を抱きしめた。その勢いに体が後ろに倒れそうになるのをなんとか踏ん張る。苦しいほどの力に一瞬戸惑いつつも、あの日巧の胸で泣いたことを思い出した。彼からは何だか懐かしい匂いがする。
巧の背は私よりゆうに高い。肩幅もずっと広い。そんな今まで体験したことのない男性の抱擁に、すっかり心奪われる。心臓が馬鹿みたいに騒いでいる。
巧はそっと私を離すと、どこか余裕のなさそうな顔で私を見ながら呟いた。
「……杏奈、悪いけどめちゃくちゃ好きなんだ。
付き合ってくれるかな」
最初のコメントを投稿しよう!