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私が早速箸を持って食べ始めると、その様子をなにやら面白そうに見てくる男がいた。巧は何が面白いのか、小さく笑いながら私を見ている。
「え、なに」
「いや、なんでも」
「いやめちゃくちゃ笑ってるじゃん」
「杏奈。今日出掛けるぞ」
突然発せられた言葉に面食らった。ほうれん草が喉に詰まりそうになる。
「え、何!? どこに!」
「どこ行くかな。行きたいところあるか?」
「へ!? え、えええ、ええ……」
しおしおとしぼんで小さくなった。せっかく普段のテンションが戻ってきたところで、再び混乱の世界へ陥る。
つまりはだ。デートというやつだ。この人生無縁だったもの。画面の中ではこなしまくったデート。妄想の中ではしまくったデート。
困って視線を泳がせる。巧とは出かけた事はあるけど、それはおばあちゃんのお見舞いとかだったし……
「え、映画、とか……?」
「いいよ。何見たいの」
「え! し、調べてみる」
とりあえず無難な映画をあげてみた。それくらいしか浮かばなかった。別に見たいものがあるわけじゃあない。
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