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巧にカミングアウトする案はすぐに却下した。私はクローゼットからカバンを取り出すと、そそくさと自室を出る。
ちょうどその頃、巧も部屋から出てきたところだったらしい。タイミングよく鉢合わせた。
「おお、行けるか?」
よく見る黒いスウェットじゃなくなった巧を見て不覚にも緊張度が増してしまった。別に私服見るの初めてってわけじゃないのにさ。でもそんな戸惑いを知られるのは非常に癪なので平然を装う。
「うん、平気」
「よし行こう」
「あれ、ねえそういえば今って代車なの? 修理中でしょ?」
「修理中ってかもう買い替えることにしたから。んで今は親父の車一台借りてる」
ぎょっとしてカバンを手から落としそうになった。まさか、藤ヶ谷社長のお車!? 絶対高級車じゃん!
「そ、それ私のって大丈夫なのかな」
「はあ? 大丈夫に決まってんだろ」
「藤ヶ谷グループ社長のお車なんて……緊張しちゃう、靴脱いで乗ろうかな」
「なんでだよ」
笑いながら巧は言った。私は口を尖らせながらとりあえず玄関に向かう。背後から巧がついてくる。
玄関にあるシューズクロークを開けて中を見渡した。
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