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「えっと、靴はどれにし」
「杏奈」
突然呼ばれて振り返る。そこには、考え込むようにじっとこちらを見ている巧がいて思わず固まる。
「え、な、なに」
「似合ってるな」
「ど、どうも」
「……でも俺は相当頭がヤバいみたいだな」
「今更気づいたの?」
私の言い方にまた笑った巧は、そのままひとしきり笑ったあと、目に浮かんだ涙を拭きながら言った。
「その格好もいいけどおにぎりが一番可愛いと思った」
「…………
あれ、ごめん褒めてる? 貶してる?」
褒められる心の準備をしていた私は目を座らせて巧を見た。おにぎりが似合う女ってことか?
巧はそんな私をみてさらに大声で笑った。何がそんなに面白いやら、今日ずっと笑われてる気がする。
「ごめん、行こうか」
「いやだから褒めたの貶したの」
「両方」
「なんだそれ!」
ふくれる私を見て、彼はただ微笑みながら靴を履いて玄関から出た。
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