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義父の高級車に緊張しながら車で移動し、映画館へと向かう。
思えば巧と街並みなど歩いたことはなかった。偽装夫婦だったので当然と言える。
駐車場に停めてとりあえず私たちはぶらりと繁華街を歩き出した。同時に、一人で歩く時よりやたら注目を浴びていることに気づく。
原因は巧だった。女からの羨望の眼差しが痛い。まあ外見はなかなかイケてる男だと思うが、まさかこんなにチラチラと女が見てくるとは。
以前の私だったら、『はいはいこの男の中身を知らずに騙されて』って冷めた目で見ていただろうが、今はただくすぐったい気持ちになっていた。
彼氏……いや、夫? どう呼べばいいのかいまいち安定しないが、特別な人になったのには間違いなかった。そんな人の隣に歩いている。
違和感。変。ムズムズする。
こういう時ゲームとか漫画ではどうだったっけ、いやだから付き合う前のデートシーンばっかりなんだよなあ。でもあれか、漫画で言えば不良に絡まれるとか、突然巧の元カノと遭遇したり、急に大雨が降ってきて手を繋ぎながらびしょ濡れになってホテルで待……
…………
「どうした、顔が青いぞ杏奈」
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