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不思議そうに私に言ってくるやつは本気でなぜ私が焦っているのかわかっていないらしかった。生粋の金持ちはこれだから困る。今まではルームシェア状態だからあまり実感がなかったが、今更彼とはだいぶ感覚がずれているのだと気がついた。
「いや、そうじゃなくてね? 私こんな高級な靴買っても勿体無くて使えないよ、こんな値段を踏むことなんてできない」
「結構貧乏性なのか」
「ねえ、もっとこうリーズナブルな店の方が私自身はのびのびできるというかさあ……」
私が言うのを彼は黙って聞いていたが、店を出ることなく再び靴が並ぶ棚に注目した。そしてその中の一つを手に取ると私に差し出す。
「じゃあ列は買わなくていいから。せめて一足くらいは買え。これはどうだ、似合うと思うけど」
「え、いやだから買っても勿体無くてさあ……」
「俺の妻が安物の靴ばかりなんて困るんだよ。経済DVでもしてるのかと思われるだろ」
巧の言葉を聞いてすうっと目を細めた。出たよ、この男の世間の目を気にするところ。やっぱり性格に難があるな、私何で好きだなんて思ったんだっけ?
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