経験値低すぎ

19/47
前へ
/382ページ
次へ
 自分よりだいぶ大きいその手は思ったより熱かった。やたら緊張してしまったのを隠すように視線を下げる。  そういえば巧は知ってるだろうか。私がこんないい年にもなって男の人と手を繋ぐのが現実世界では初めであることを。あの事故みたいなキスが、ファーストキスだってこと。恋愛に興味がなかったとは言ったが、そんなやばい女とはさすがに知らないのでは。  手を繋いで街を歩くだなんて、そんなの妄想の中でしかしないかと思っていたのに。 「お会計をよろしいですか」  私が立ち上がった直後、店員が声をかけてきた。同時に巧が返事をして私の手を離す。その手は黒いクレジットカードを取り出すのに使われてしまった。  なんだか気まずくなって興味もないのに他の商品を見るフリをして背を向けた。離れてしまった手が名残惜しかっただなんて、口が裂けても言えないと思った。一瞬くっついだだけの掌がやたら熱を持ったように感じた。  恋愛ど素人はこれだからいけない。
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2847人が本棚に入れています
本棚に追加