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まだ外に出てほんの三、四時間しか経過していない。そのうちの二時間近くは映画を見ていただけで、デートらしいことはまるでしていないのに、もう堪能したとはこれ一体。
はっと巧が行きたいところを聞けばよかったとすぐに思い出す。慌てて彼に言った。
「あ、巧は行きたいところとか」
「ん? いや、杏奈が堪能できたならいい」
私の質問に、彼は笑ってそう答えた。けれどもその顔はいつもの自信に満ちた彼とは違い、どこか力ない笑みのように見えた。
そんな顔を見て、ああやっぱり返事を間違えたと後悔する。初デートをこんなに早く切り上げようとする女なんてダメだ、あまりに酷い。
それでもこれから行く先なんてやっぱり思い浮かばなくて、私は困りながらただ目線を泳がせた。
そのまま車に乗って帰宅してきた私たちは、初デートを終了させた。なんともあっけない一日だった。
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