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はあとため息をついてそう結論に至った時、玄関の開く音が聞こえた。出かけていた巧が帰ってきたらしかった。
私は慌てて立ち上がりすぐさま自分の部屋から顔を出す。やはり、玄関で靴を脱いでいる巧がいた。手には本屋にでも行ったのか、薄茶色の紙袋を持っていた。
私に気づいた巧は顔を上げる。
「? なに」
「あ、いや、おかえり」
「ただいま」
そう短く言うと、巧はすぐに自室へ入っていこうとする。このタイミングを逃してなるものかと慌てて声をかけた。
「た、巧!」
彼はドアノブに手をかけたままこちらを向く。
「なに?」
「あ、いやあさあ、あのね。…………」
おいどうした私の声帯。全然震えてくれないじゃないか。さっきまでの決意はどこへ行った。
口ごもる私をみて、巧は怪訝そうにこちらをみてくる。
「杏奈?」
「い、や、巧は、どんな本読むのかなあ、って……」
「経営学の本だよ。読むか?」
「イリマセン」
「だろうな」
そんな短い会話だけすると、巧はさっさと自分の部屋に入っていってしまった。パタンと扉が閉められてしまう。そのドアを意味もなく眺め続けた。
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