経験値低すぎ

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   選択肢に任せて私は彼の首に自分の腕を巻きつけた。箸を持ったまま体を固める巧の様子が伝わる。恋愛偏差値ゼロの自分が、自分から相手に抱きつくなんてできたことに自分自身驚いた。 「……杏奈」 「ごめん、本当はた、楽しかったから。靴も嬉しかったし、映画もよかったし、ご飯だって美味しかった。巧と出かけたの、楽しかったから」  かろうじて早口でそれだけ言うと、ゆっくりと腕を解いた。巧の顔を見上げるのがなんだか恥ずかしくて、私は俯いたまま離れようとする。    それを、腕を掴まれて止められた。 「あのさ、あんまり煽らないでくれる?」  低い声でそう言ったのが聞こえて反射的に顔を上げる。一瞬見えた巧の顔は、少し口角を上げて優しく笑っている顔だった。  その瞬間、また彼の顔が見えなくなる。同時に柔らかな感触が唇に伝わった。  以前の無茶苦茶な状況のキスと比べて全く違う、優しさでいっぱいになるようなキスだった。
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