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すぐ近くにある暖簾を指さした。昔から通っている行きつけのお店だった。中はカウンター席と少しのテーブル席で決して広いとは言えないが、出てくる料理はほっこり感じる暖かなものだ。
個室などもないし、狭いからこそ周りの人との距離も近い。これなら巧もそう文句をいわないのでは。
私は引き戸を開け、暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
「あ、すみません三人……」
声を出そうとして止まる。すぐ近くのカウンター席に座る姿に見覚えがあったのだ。私は瞬間的に脳が停止した。
くるりとこちらを振り返った男女が、驚いたような顔で私たちをみる。
「あれー!? 樹と杏奈さんじゃない!」
私の背後から樹くんがひょこっと顔を出した。
「あっれ、父さんと母さんじゃん」
そう、こんな小さな店のカウンター席に座ってお酒を飲んでいたのは義両親だった。結婚する時に会って以降全く会えていないお二人だ。まさか、こんなところで会うなんて! 藤ヶ谷社長もっと高級店にいかないの!?
私は慌てて頭を下げる。
「ご、ご無沙汰しております!」
「やだ、奇遇ね! 凄い偶然ー!」
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