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振られてしまった。ぐっと言葉に困る。きっと普通の夫婦なら、喜んで妻は温泉に賛成するだろう。断る理由なんかない。でもここで賛成するわけには……!
巧が困ったように言う。
「義実家と一緒の旅行じゃ杏奈も休めないだろ」
「やあねえ、一緒にって言ったけど、もちろん別行動よ。私たちそんな野暮なことしないわ。あ、子供は結婚式までは我慢しなさいね」
「ぶっ!!」
烏龍茶を口から噴き出してしまったのは私だった。いやそうだ、温泉なんか一緒に行ったら巧と同じ部屋になる! それはつまり、
そういうことでは……!?
「母さん、そういう話は別に口に出さなくていいから」
樹くんが呆れたように言った。私は慌てておしぼりでテーブルを拭く。胸がドキドキしてしまってどうしようもない。
つい先日付き合い出してようやく軽いキスを済ませただけの女にはレベルが高い話だ。
「あらごめんなさいね。ねーいいじゃない? いい旅館予約取ってあげるわ、リフレッシュにもなるわよ杏奈さん!」
「あ、ええっと、そ、そうですね……」
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