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「麻里ちゃん、私は何を準備したらよいだろう」
私は旅行バッグの前に正座をして、背筋をピンと伸ばしたまま無表情で尋ねた。
電話口の麻里ちゃんはキョトンとした様子で答えてくる。
『え、着替えの下着とかースキンケア用品とか、メイク道具もいるしー』
「そうじゃない。麻里ちゃん、そうじゃない」
『あー夜に向けてってこと? あれ、むしろまだ済ませてなかった?』
「オフコース、済ませてたら温泉行くのにこんなに緊張してない!!」
私はつい焦って声を荒げた。すぐにはっと冷静になり咳払いをする。落ち着け、落ち着くんだ。
あれからお義母さんの仕事は早く、食事をした三週間後に温泉旅行の日が来てしまった。これから巧の車で隣県の温泉旅館まで向かうことになっている。
旅行カバンに着替え等しっかり準備を行った後、私は耐えきれない緊張と混乱で麻里ちゃんに電話を掛けていた。
部屋割りは巧と私二人の部屋となる。それが普通だ。今までだって一つ屋根の下に過ごしてきたわけだが、お互いの部屋はあったし寝る時だって無論別々だった。
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