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ニコニコしながらそう話して巧を見上げた時だった。バチっと目が合った彼は、少し間があった後気まずそうに視線を逸らして、なんともわざとらしい咳払いをした。
…………あっ、決してやましい意味ではないのだが!!
自分が考えなしに出してしまった発言に自分で赤面する。いや、普通の発言だよ、でも状況が状況だからなんか変な感じに聞こえるって!
「ほ、ほら、温泉来たらお風呂たくさん入らなきゃ損みたいな感じあるじゃない!? 大浴場は閉まっちゃうから……!」
「まあ、そうだな」
私の言い訳も聞いてるのかいないのか、巧は短くそれだけ返事をしてくるりと背を向けてしまった。それを追いかける気にもなれず、私はそのまま意味もなく露天風呂を見つめた。
「はあ〜…………」
いつもとどこか違う。同じ部屋にいるだけなのに、私も巧もどこかよそよそしい空気なのを流石に感じている。
一応夫婦なんだけどなあ。温泉にきただけでこんなにガチガチに緊張してる夫婦なんかいないよね。
お風呂の戸を閉めて部屋に戻ろうとした時、鏡に自分の顔が映り込んだ。そこにはやっぱり、頬を引き攣らせて困り果てている自分の顔がある。
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