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その表情はどこか安心しているような顔立ちにもおもえる。
「……え、なに?」
「いや。そういうこと気にしてくれてるんだって思って」
わずかに微笑みながらビールを飲む。意味がよくわからない私は首をかしげた。
「え、何が。どう言う意味?」
「いや。杏奈には悪いけどちょっと嬉しかっただけ」
「え?」
「俺の過去に興味持ってくれるのが」
そう言った彼は、目を細めて私を見た。
その子犬みたいな顔を見てついどきりとする。私は持っているチューハイの缶を両手で包んだ。ひんやりとした感覚が伝わる。
「いや、めんどくさいこと聞いてごめん……」
「めんどくさくないよ」
「めんどくさいじゃん。どうせ何を聞いてもいい気持ちにならないのわかってるのに聞くなんて」
「いい気持ちにならないんだ?」
「そりゃ」
パッと顔をあげる。巧と思い切り目が合ってしまった。
私はすぐにまた逸らす。
狡い。
私は過去の恋愛なんてほとんどないんだから、巧は気にならないでしょう。私だけもやもやしてるの、狡い。
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