残念な頭でいざのぞむ

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「…………そ、ういうこと、聞くかなあ……?」 「ははっ。確かに」  巧は短く笑うと、私の手を無言で強く引いた。引かれるがままに立ち上がると、すぐそばで敷かれていた布団に座らせられる。高級旅館のふわふわしたいい布団を感じた。  何かを言う暇もなく、巧がすぐ隣に座り込む。  きっと今の私は顔が真っ赤だ。熟れたトマト並みに。緊張で震えてきた手を何とか鎮めようと試みるも何も言うことを聞いてくれない。  目の前に座る巧がいつもとは違う人のように思えた。浴衣の襟から覗く鎖骨が綺麗だ。 「た、くみ、あの」 「何も言わなくていいから」  そう優しく言った彼は、私をそっと抱きしめた。  ああついに。  大人の階段登る。二十七歳とっくに大人のくせに。  広々とした巧の胸は非常に熱く感じた。アルコールを飲んだからか、それとも、巧もこの状況に少しでも緊張してくれていたら嬉しいと思った。 「杏奈」  その声が、心地いい。  巧の大きな手が私の首筋を撫でた。  時だった。  ピンポーン  部屋にインターホンの音が響き渡る。  私たちはピタリと停止した。
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