残念な頭でいざのぞむ

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「……誰だろうこんな時間に」  私が言うと、巧は気にしてない、とばかりに首を振った。 「どうせ酔っ払いが部屋間違えてんだろ」  そう言って再び私にキスをしようとした時だ。  ピンポーンと再度、場にそぐわぬ高い音が響く。  私は慌てて彼にいった。 「旅館の人かもよ? 何かあったのかも」 「何かって」 「わかんないけど。それかお義母さんたちかも」 「こんな時間にこないだろ」 「出るだけ出た方がいいって」  私がそう言うと、巧は非常に不機嫌そうに立ち上がった。旅館の部屋にはカメラ付きインターホンなんか設備されていない。私たちはそのまま玄関へと向かった。  閉めてある鍵を開け、いざ巧がその扉を開けた。 「こんな時間にどちらさ」 「はーいこんばんは!!」  目の前に立っていたのは、樹くんだった。  キョトン、と二人で固まる。樹くんはニコニコしながら片手にビニール袋をぶら下げていた。不機嫌そうだった巧の顔がさらに険しくなる。 「なんだよ」 「せっかくだからさー兄弟水入らずで飲もうかと思って!」  彼は持っているビニール袋を掲げた。なんとも無害そうな笑顔である。
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