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巧と樹くんが攻防を繰り返した挙句、樹くんが断固として動かない決意だけが残った。器用にも一応寝たフリはしている。
巧は目を座らせながら、樹くんを足蹴りした。
「ちょ、ちょっと、蹴るのは可哀想だよ!」
慌てて私が言うも、巧は樹くんを踏みつける足を下ろすことなく言う。
「これぐらいしないと俺の気はすまない」
「あらら……」
「はあ、やっぱりインターホンなんか出るんじゃなかった」
そうため息をついた巧はちらりと私の顔を見た。その目と合ってついどきりと心臓が鳴る。さっきまでの空気感を思い出してしまった。
やっといい雰囲気になれたところだったのにな、これじゃあ無理だ。
巧は再び大きなため息をつくと、ヤケだと言わんばかりに樹くんが持ってきたビールをあおいだ。そして一気に飲み干すと、私にいう。
「杏奈は樹の部屋に行って寝ればいい」
「え、でも」
「俺たち二人が移動したらどうせこいつは目が覚めたーとか言ってまた乱入してくるだけだから。無視したらフロントに連絡して鍵開けさせるぐらいのことするから」
(樹くん執念やばいじゃん……)
「でも私一人なんて……」
「俺は樹に杏奈の寝顔を見せれるほど心が広くない」
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