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私は靴を脱ぎ捨てて荷物を一度自室へ運び入
れるために歩く。職場のみんなに買ってきたお土産、忘れないようにしなきゃ。あとは親に買ったやつも、間違えて食べないように別にしまっておいて……
そんなことをぼんやり考えているときだった。
「杏奈」
自分の部屋のドアノブに手をかけたとき、背後からそう呼ばれる。反射的に振り返った瞬間、いつのまに近くに来ていたのか、巧が何も言わず私の口をキスで塞いだ。
突然のことに驚いて固まる。そんな私にもお構いなしに、巧はそのまま深く口付け続けた。
そのキスからはどこか余裕のなさを感じた。巧の手がすっと私の髪を撫でる。一足遅れてやってきたドキドキと戦いながら、ようやく状況を察した。
追いつけない呼吸にやや苦しさを感じていると、巧が少し顔を離す。
間近で見る彼の表情は、やっぱり『オス』の顔をしていてこれでもかと心が高鳴った。
熱っぽい視線に、どこか苦しそうな顔。
「……ごめん、待てない。
杏奈の部屋、行っていい?」
言いづらそうに言っていた巧に、ぼっと私の顔は赤面した。
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