残念な頭でいざのぞむ

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 翌日から再び仕事が開始した私たちは、またほとんど顔を合わせない日を送っていた。  巧は夜遅いし、帰ってきてもどこか私に距離を置いている気がした。  もう何度目かわからないスマホで検索をかけてみると、『男は実は繊細な生き物で強く誘いを拒絶されると立ち直りに時間がかかる』と読んだ。まじか、私はほんとにやらかしてしまったらしい。  それでもまさか自分からあの夜について話題に触れる勇気もなく、どうしていいのかわからないままだった。 「杏奈っちゃーん」  金曜の夜。仕事を終えて外に出ると、聞き覚えのある声がした。私はげっそりとした顔でそちらを見る。  やはり、またしても樹くんが私を待ち伏せていた。  彼は私の顔を見てキョトン、とする。 「あれ。金曜の夜だからかな? 顔疲れてるねー?」 「そうかな……」  旅館で私たちの部屋に突撃してきた樹くんを、あの時は呆れながらも笑って見ていられた。だが、その後あんな事態になってしまったので、私は今更ながら樹くんを少し恨んでいた。あの突撃がなければ、今巧とこんな気まずくなってなかっただろうに。
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