残念な頭でいざのぞむ

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 口を尖らせてる樹くんを置いてスタスタと足を進めていく。明日は休日だし、巧とちゃんと話せるかな。また料理でもしようか。ワンパターンだな自分。  そんなことを考えていると、ふと目の前に立つ人影に気がつく。  その人は私の行く道を塞ぐようにして立っていた。そして、じっとこちらを見ていたのだ。  綺麗に手入れの行き届いた黒髪のロングヘアだった。質の良さそうな生地のワンピースを身に纏っている。  日本美人、と呼ぶのにふさわしい女性だった。  彼女は微笑みながら私を見て立っていた。 「……?」  ゆっくり足をとめる。私の背後にいた樹くんもつられて止まった。  初めてみる顔だ、知り合いではないだろう。仕事上色々な人とも会うので、顔を覚えるのは得意なはず。  黒髪美人は私を見つめてにっこり笑った。とりあえず、訳もわからないまま頭を下げる。 「初めまして。高杉……いえ、藤ヶ谷杏奈さんでよろしいですか?」  高い声が響く。私はなんとなく背筋を伸ばして、持っているバッグを握り直した。どこか威圧感のある女性だ。
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