残念な頭でいざのぞむ

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 背後にいた樹くんが不思議そうに女性を見ながら私の隣に移動する。視線で知り合い? と尋ねられる。小さく首を振った。  初めまして。あの人は確かにそう言った。  女性は丁寧に頭を下げた。サラリと艶のある髪が落ちる。 「突然すみません。私、安西唯と申します」 「安西唯……?」  隣の樹くんが呟いた。私は聞き覚えのない名前なのだが、とりあえず丁寧に頭を下げ返した。 「藤ヶ谷杏奈です、私に何か?」  頭を上げると、安西さんが目を細めて微笑んでいるのが目に入った。その顔を見た途端、なぜかは分からないが一気に緊張感が高まった。  その笑顔は、どこか敵意と、見下した感情が感じられたのだ。 「単刀直入に申します。藤ヶ谷巧さんと離婚していただけませんか」 「は……」  ぽかんとして理解に苦しんでいると、安西さんがそっと手を出して自分の腹部を撫でた。ワンピースでわからなかったが、そのお腹は明らかにぽっこりと膨らんでいた。  どきっとする。  彼女は愛おしそうにお腹を撫でながら言った。 「私、巧さんの子供を妊娠しているので」      
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