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「杏奈ちゃん、大丈夫!?」
「……ごめ」
「あいつ……ふざけんなよ、何考えてんだよ!」
私と反して樹くんは険しい顔で叫んだ。冷静にそれを止める。
「安西さんは悪いわけじゃ」
「あの女じゃないよ! いやあの女もムカつくけど!
巧だよ、他の女孕ませて何やってんだよ!」
樹くんの腕は怒りで震えていた。顔も真っ赤になっている。
「そんな、結婚する前のことだから……半年前なら巧とは出会ってもないし」
そう、妊娠六ヶ月ならば巧が浮気していたというわけではない。私と出会う前にあったことだ。
だが、樹くんは険しい顔をして私を見た。
「え? 一年付き合ってたんでしょ?」
そう聞いてはっとした。
しまった、そういう設定だった……! 私は今更慌てて口を両手で押さえる。あまりの展開に冷静さを欠いている。
樹くんはじっと私の顔を見ていた。その真っ直ぐな視線が、全て見抜かれている気がした。
私は彼から顔を背ける。
「杏奈ちゃん?」
「……ごめん、今混乱してるの。何も聞かないで」
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