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樹くんは頭を掻く。
「はあ……そんな相手か」
「むしろ、私より相応しい家柄の人なんじゃ……」
「馬鹿なこと言わない方がいい、杏奈ちゃんが一番に決まってる」
私は力の入らない足でなんとか地面を踏みつける。そして樹くんに向き直った。
「今日、私から巧には言うから……樹くんは何もいわないでね」
「でも……! どうするつもりなの、あの女なかなか引き下がらなそうだったよ?」
心配そうに私を見てくる彼に、形だけ口角を上げて見せた。
「本当に子供がいるなら……引き下がるのはどっちが相応しいか分かる」
「杏奈ちゃん!」
そもそも、私と巧は確かに結婚している。でもそれは元々は契約上のことで、その後から付き合いだしただけのこと。私たち二人の歴史はあまりに浅い。
険しい顔をしている樹くんにもう一度釘をさす。
「ちゃんと今日、巧と話すから。樹くんは待っててね。これは私たちの問題だから」
何かいいかけるも、彼は黙り込んだ。
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