真実は?

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 付き合ってないにしても、あの人とは深い関係になったはずなのに。彼は平然と嘘をついてみせた。……いや、普通は隠すか、そんなこと。私に隠す過去が無さすぎるんだ。  ふ、と口から笑みが溢れる。 「そっか」 「杏奈が気にすることはなにもないから」 「……うん」 「さ、俺は風呂に入ってくるわ。出張の準備もしないと。めんどくせ」  巧は大きなため息をつきながらそう言うと、そのまま浴室へと向かっていった。リビングの扉が閉まったあと、誰もいない無音の部屋に一人残される。  つい、涙がこぼれた。  樹くんにちゃんと私から話すから、なんて言っておいて。結局怖くて何も聞けないなんて、臆病にも程がある。でも巧の反応で分かった、安西さんは狂言をしているわけじゃない。きっと本当に巧と深い関係にあって、妊娠してるんだ。じゃなきゃ、巧があんなに狼狽えるはずがない。  そうなれば結末はとんでもなく恐ろしいものになる。  私と巧が離婚しなければならないという最悪のもの。私はそれをきくのが怖くて、何も言えないんだ。
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