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翌朝早朝に、巧は出張へ出掛けていった。見送りはしなかった。まだ寝ているふりをして、自分の部屋に引きこもっていた。
夫の出張を見送ることもしないなんて、今更ながらなにが妻だ。何が彼女だと笑えてくる。
巧が出掛けて行った後、一睡もできなかった重い体をなんとか起こして活動する。メイクすらせずだらだらと着替えだけ済ませて動いた。目的は決まっていた。
私はフラフラとした足取りのまま、そのまま外へと出掛けた。
広いリビングで未だ呆然としたまま、私は座って机の上を見つめていた。
朝食は喉を通らなかった。いや、そういえば昼食もだっけ。夕飯だって、これじゃ食べられるのかわからない。
スマホには、巧から『今着いた 土産何がいい?』とだいぶ前にメッセージが届いていた。読むだけ読んで返信する気にもなれず、既読スルーをしている。
テレビをつけるでもなく、飲み物を飲むわけでもなく、ただ私は一点だけを見つめていた。
『離婚届』
テーブルに広げられた用紙の、その文字だけを。
巧との始まりは本当に突拍子もなくて、ただのルームシェアってところから始まった。
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