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いつも自信家でやたら計算高い巧に始めはずっと引いてたけど、私のばあちゃんのこともしっかり考えてくれて、亡くなる時は仕事を投げ出して送ってくれた。落ち込んでる時はそっと励ましてくれた。
そんな不器用な優しさが三次元お断りだった私の心に響いて付き合いが始まったわけだけれども。
「……終わるの、早かったなあ」
正直、恋人らしいことってそんなにできてないな。初デートも失敗。その後何回か出かけたけど、旅行も失敗したしな。
はあ、とため息を漏らし、ただただ涙を流した。巧の子は安西さんのお腹の中ですくすくと育ってる、一日でも早く結論を出して動かなきゃならないのわかってるのに。
……動けない。
何度も拭った涙をもう一度拭いた。巧が出張から返ってきたらちゃんと話してこれを渡さなきゃ。安西さんと結婚すべきだよって、言わなきゃ。だって子供がいるんだから仕方ないよ。
机に突っ伏して声を上げて泣く。ただ一人、誰にも打ち明けられないまま悲しみと戦った。
その時だった。広いリビングに、インターホンの高い音が鳴り響いたのは。
ピタリと泣くのを止める。ゆっくりと顔を上げた。
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