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こんな時に誰だろう。ネットでなんか買ったっけ。なんかのセールスとか……
考えている間に再びインターホンが鳴った。催促するようなそれにつらえて、私はふらりと立ち上がる。
訪問者を映し出すモニターを覗きに行った時、一瞬息をのんだ。
樹くんだった。
いつだったか突然訪ねてきたときとは違い、彼は真剣なまなざしでこちらを見ている。私は震える手で対応した。
「……はい」
『杏奈ちゃん?』
厳しい顔でこちらに呼びかける。
「うん」
『ちょっと上げて』
有無言わさない言い方だった。今までだったら、巧の樹くんを家にあげるなという言いつけを守っただろう。でも今日はそんな言いつけは聞いてられなかった。巧と離婚する今、守る義務はない。
私は無言でロックを解除した。しばらく経って、今度は玄関前のインターホンが鳴る。私はすっぴんに寝癖がついたままのその格好で樹くんを出迎えた。
玄関の扉を開けた瞬間、樹くんが私を見てぎょっとした。鏡を良く見ていないけれど、目が腫れているのかもしれない。
「……あ、樹くんどうぞ」
目元を触りながら彼を招いた。
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