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樹くんはそのまま玄関に上がり、靴を乱暴に脱ぐ。そして力強い足取りで廊下を進み、リビングの扉を開けた。
中は無人だ。
樹くんが振り返って聞いた。
「巧は?」
「え、と……急な出張になっちゃって」
「はあ?」
信じられない、とばかりに彼が首を振る。しかしすぐに察したのか、私の顔を覗き込んだ。
「まだ話してないの?」
図星。ゆっくり俯いた。
「ごめん、ちょっとタイミングがなくて……」
「いや、言いにくいのはわかるけど」
そう言いかけた樹くんがふと、ダイニングテーブルの上にある緑の用紙に気がついた。驚いたように目を丸くし、それを手に取った。
「……離婚、するの?」
返事ができなかった。しばらくそのまま沈黙が流れる。樹くんは持っていた離婚届をそっと置き、私に詰め寄った。
「離婚するの? 巧と?」
「……だって、そうするしかないよね。相手巧の子供妊娠してるんだよ?」
「そりゃそこの問題は大きいけど! だからって……いや、待って。杏奈ちゃんが離婚したいっていうならしょうがない。他の女孕ませるなんてそりゃ別れたくもなる」
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