ご挨拶

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 冷えたシャンパンを喉に流し込むと、上品な香りが鼻を抜けて唸る。酒好きなのでたまらない味だった。ああ、これをオーウェンのDVDでも見ながら飲めたら最高だった。 「それで、結婚式はどうするの?」  奥様が笑顔で早速突っ込んでくる。私は無言で隣の巧さんをチラリと見上げた。彼は飄々と告げる。 「ゆっくり考える。今すぐには考えてない」 「ええ? そうなの?」 「先に籍を入れて暮らしはじめてからゆっくり計画立てる。父さんは分かってると思うけど今仕事が忙しくて中々休みもとれないんだ」  淡々とそう述べた彼に、奥様は食いついた。 「なんとか調整してちゃんと挙げた方がいいわ。色んな方達にもご連絡しなくちゃだし、杏奈さんのご両親だって……」 「一生に一度しかないんだ。時間に追われて色々準備したくないんだよ。ちゃんと落ち着いた時に、しっかり二人で話し合って計画立てたいんだ」  奥様が黙った。私は感心した顔で隣を見る。  上手い言い方だな。さすが藤ヶ谷グループ副社長、こんな言い方をされれば誰も文句言えまい。  社長も安心したように呟いた。
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