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「さっぱりしてるね。てゆうか今日はあれじゃないんだ?」
「え?」
「おにぎり」
ピタリと缶を持つ手が止まった。
私の今日の部屋着はいたって普通の黒いTシャツだった。おにぎりなんて着れるはずがない。
ゆっくりと視線を動かして、ダイニングテーブルの上に置きっぱなしの緑の紙を見た。
……忘れてたわけじゃない。でも、思い出さないようにしてた。
しばらく沈黙が流れた。お酒もちっとも進まない。頭がふわふわと浮いたような感覚になった。ずっと閉じ込めていた感情が溢れてきて、全身を支配しているような浮遊感。
ふ、と自分の口から笑みが溢れる。樹くんが不思議そうに見た。
「樹くん、ありがとう励ましてくれて。今日一日、余計なこと考えずに済んだ」
「…………」
「私は大丈夫だよ。そりゃすぐには立ち直れないかもしれないけど……それでも、時間が経てばちゃんと」
「杏奈ちゃん」
いつもの明るい声じゃなく、低めの音が聞こえて口をつぐんだ。
横を振り返る。私を真剣な眼差しで真っ直ぐに見ている樹くんに息が止まった。
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