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色素の薄い瞳と髪は、巧とはまるで似ていない。それでも、どこか巧を思い出させるのはやはり兄弟だからなのか。
まだ濡れたままの髪を揺らし、樹くんが言う。
「俺のところにおいで」
「………え」
予想外の言葉に息が漏れる。彼は非常に真剣なまま続けた。
「最初は巧ともルームシェアだったんでしょ。じゃあ俺でもいいじゃん。ここまですごいマンションじゃないけど部屋は余ってるし」
「え、でも」
「俺のところにおいでよ」
その声に、心が震える自分がいた。
聞いた事ない樹くんの不思議な声色。普段子犬みたいだと思っていた無邪気な彼の、見たことのない表情。
私は視線から逃れるように顔を背けて笑った。
「そうはいかないよ」
「なんで」
「樹くんに彼女とかできたら大変だよ」
「言ってる意味分からない?
俺にしておきなよって言ってるんだよ」
全身がこわばった。
ピクリとも動けず硬直する。
待って、それはどういう意味で言ってるの? また悪ふざけ? 巧への嫌がらせ?
混乱の絶頂にいる私の頬に、樹くんが手を伸ばした。熱い指先が触れて心臓がドキンと鳴る。
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