2837人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
樹くんの優しい声がして、私は初めて自分の目から涙が出ていることに気がついた。目の前がぼやけて見えない。
涙は雨のように溢れてきた。頬を伝ってそのままソファに落ちていく。
樹くんは驚いた顔も見せず、ただ優しい顔で私を見ていた。
「私……よくわかった」
「うん」
「今日樹くんと過ごして楽だし楽しかったの。巧はバカ高い靴すぐに購入したりするし器用そうに見えてアホなんだけど」
「うん」
「樹くんといてもずっと巧を思い出してるの。アホな巧がいい、私ここを出ていきたくないよ……」
やたら自信家のくせにデート慣れてないとか言って下調べする変な人。普段飄々とした態度なのに照れると顔を赤くさせる変な人。
不器用なりに、まっすぐ私に思いをぶつけてきてくれた人だった。
他の人が巧の子供を宿しているだなんて聞けば引き下がるしかないのに、でも私はやっぱりこのままなんて嫌だ。安西さんに私の居場所を取られたくない。
巧の隣は、私がいい。
子供みたいにめちゃくちゃに泣きじゃくる私をしばらく見守っていた樹くんだが、少しして私の頭にポンと手を置いた。
「はーようやく本音出たね」
最初のコメントを投稿しよう!