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目の前を涙で滲ませたまま顔を上げる。樹くんが目を細めて笑っていた。
「いや、ほんと巧みたいな変人好きなの俺もどうかと思うよ。でも杏奈ちゃんの本心はそれなんでしょ、なら離婚届もらう前にちゃんと巧に本音をぶつけなよ」
「え……」
「付き合ってるんでしょ。あれ、てか結婚してるんだっけ。とにかく、なんでも話さないのはよくない。巧の出張なんか殴って止めろよ。なんでそんな自分を押し殺してるの」
強めに頭をぽんぽんとする樹くんは笑いながら言った。そして近くに置いてあったティッシュを手にして私の顔に当てる。
「俺やだよあんな性格悪そうなのが義姉になるの」
「……樹くん」
「どうなるかはわかんないけど、とにかく杏奈ちゃんはもっと怒るべきだし甘えるべき。それだけは確かだね」
涙を拭いて視界がはっきりしたところで、ようやく彼の意図に気がついた。
まさか、そのために今日私に付き合ってくれたの? 巧のこと嫌いなのに、樹くんは……。
私の視線に気が付いたのか、彼は意地悪く笑う。
「あ、俺んとこにおいでってのは本心だから、離婚決まったら本当においで」
「え゛」
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