2837人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
「いやー前は押し倒しても眉一つ動かさなかった杏奈ちゃんがちょっと戸惑ってた顔見れたのよかったわ、可愛かった。もうちょっと押せばこっち来る?」
「あの樹くん?」
いつものノリに戻り、なんだか彼の本心がよく見えない。困っている私を見てまた笑いながら、彼はポケットからスマホを取り出した。そして何やら操作する。
「ほんとさー出張とかゆるしてる場合じゃないって」
「う、うん、帰ってきたらちゃんと話す……」
「帰ってきたらじゃなくて帰って来させるんだよ」
そう強めの語尾で言った樹くんのスマホから、呼び出し音が聞こえた。そして少し経ち、不機嫌そうな声がする。スピーカーになっているのか、私にもハッキリ聞こえた。
『もしもし樹?』
巧の声だった。
樹くんはニヤリと笑う。そしてどこか勝ち誇った顔で言った。
「あれー巧どこで何してんの〜?」
『はあ? 何って、今貴重な休日使って出張で』
「あーごめん興味なかったわ。さーて。俺今どこにいるでしょうー?」
『知るか。用がないなら切るぞ』
最初のコメントを投稿しよう!