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イライラしている巧に心底嬉しそうな顔をした樹くんは、スマホを私に向ける。何か話せ、ということらしい。
心の準備が出来てなかった私は一瞬戸惑うも、おずおずと声をだした。
「…………巧?」
その瞬間、電話口から何か落下したようなガタンという音がした。慌てたような巧の声が響く。
『あ、杏奈? お前何してるんだこんな時間に樹と! 俺の連絡も無視して』
巧の声を聞いて樹くんは嬉しそうに笑った。すぐにスマホを口元に寄せる。
「杏奈ちゃん今日おにぎり着てなくて残念〜」
『!? へや、へへ、部屋にいんのか? はあ?』
「今日杏奈ちゃんとご飯食べてー買い物してー飲んでーめちゃ充実してたよ」
『ちょっと待て、なんでお前ら! 杏奈? おい!』
樹くんは大変楽しそうに笑った。もしやこれがしたかっただけか? と呆れたとき、突然彼は真顔になり声を低くした。
別人のような顔つきと声でいう。
「巧。お前今すぐ帰ってこなきゃ人生終わりだと思え。杏奈ちゃん泣いてるぞ」
『……え』
それだけ言い捨てると、樹くんは電話を切った。そしてスマホをポケットにしまう。
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