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「さ、これで帰ってくるでしょ」
「い、樹くん」
「帰ってこなかったら本気で俺の家おいで。それは冗談じゃないから」
彼が立ち上がったのを見て、帰るんだ、と理解する。私も追うように慌てて腰を上げた。
全部私のためにやってくれた。今日一日使って、私たちのために。巧と仲悪いしいつも悪ふざけしてるのに、なんで?
「さーちゃんと戸締りしなよ」
「ね、ねえ樹くん、本当にありがとう……」
「いや、俺は楽しんでただけだしー」
スタスタと玄関に向かっていく背中を追いかけながら、私は尋ねた。
「巧のこと嫌ってるのに、なんでこんなにしてくれたの……?」
「勘違いしないでほしいなあ、俺は巧のためになんて動いたこと一切ないよ。でも杏奈ちゃんは好きだからそのままにしておけなかっただけ」
「でも……」
玄関で靴を履く樹くんは、最後にくるりとこちらを見る。そしてあの子犬みたいな顔でにっこりと笑った。
「俺の理想は二人が円満に離婚して、スッキリした杏奈ちゃんが俺の家に来る! これが最高の終わり!」
「ええ……」
「とゆうわけで、待ってるよー、電話してね」
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