ご挨拶

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 食事会は穏やかに進められ、その日は解散した。奥様の質問攻めには頭を悩ませたが、全て上手く巧さんが答えてくれた。おかげさまで私は仕事に理解のある出来た彼女という立場を手に入れた。  来た時同様、高級車に乗り込み揺られる。程よく飲んだお酒と、緊張がほぐれたためかうとうとと眠くなってしまう。  気がつけば、目を覚ました時には自宅近くまでたどり着いていた。 「……あ、ごめんなさい、寝てた」  はっと目を覚まして姿勢を正す。ハンドルを握っている巧さんは特に気分を害した様子もなく言った。 「緊張してたんだろ、母さんがどんどん飲ませるし」 「ああ、美味しいシャンパンだった……」 「酒好きなんだ?」 「かなり」  普段家でも一人飲むことは多い。つまみは二次元のイケメン達で。  巧さんはふ、と小さく笑った後、そのまま口角を上げて続けた。 「満点な妻の姿だったな。想像以上だった、杏奈に声をかけてよかった」 「はあどうも。仕事してるテンションで臨んだまでです」 「プライベートは違うってことか」 「プライベートであんなカチカチな女いないでしょ」
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