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今私は胸が愛しさでいっぱいになっている。
諦めようとした恋心が、やっぱり無理だよとばかりに全身に溢れかえった。
ああ、もう。
なんでこんなに好きなんだろ。
「…………杏奈?」
険しかった巧の顔が驚きに変わった。私の目に涙が浮かんでいたからだった。
戸惑ったようにオロオロした巧は、いつだったかそうしたように服の袖で私の顔を拭く。
「どうした、なんかあ」
「安西さんに会ったの」
ピタリと彼は停止する。しかしすぐに顔を歪めた。
「そうだったのか、あの女なんか杏奈にしたのか?! そうなんだな、嫌がらせでも」
「妊娠してるんだって」
言えなかった言葉を出した。同時に巧は目を見開く。
「巧の子を妊娠してるから、離婚してほしいって言われた。今六ヶ月なんだって……だから、私、巧と離婚しなきゃいけないんだって思って」
「にん、しん?」
「一人悩んでて。安西さんと会った時偶然にも樹くんと一緒だったの。だから彼は知ってて私を心配してくれただけ」
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