隠し事はもうしない

5/34

2836人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
 目が合った巧は、まっすぐ私の目を見ていた。その目からは逃げたいとか、ごめんだとか、そういう色は見えない気がした。 「ごめん、気づかなくて」 「ううん……」 「全然知らなくて。今思えば杏奈の様子がちょっと変だったのに」 「言えなかった私が悪いの」 「いいか。はっきり言う。  安西唯の腹の中にいる子の父親は俺じゃない」  巧はほんとうにはっきり言った。一言一言言い聞かせるような発音で。  思っても見ないセリフにポカン、とする。だがしかし、すぐに冷静になり、彼の無責任な言葉に苛立ちをおぼえた。 「あのね、避妊に100%はな」 「だって何もしてねえもん」   ……なんだと?  脳内が停止した。まさかの返答だった、私の脳内シミュレーションの中でこの展開はまるでない。あれか、シークレットエンドか?  何もしてない、だと??  私は口を開けた間抜け面で巧を見つめた。彼はふうとため息をつきながら言う。 「とんでもねえ女だったなあいつやっぱり」 「え? いやでも、流石にそれは……だって本当にお腹大きかったし……あれ?」
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2836人が本棚に入れています
本棚に追加