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目が合った巧は、まっすぐ私の目を見ていた。その目からは逃げたいとか、ごめんだとか、そういう色は見えない気がした。
「ごめん、気づかなくて」
「ううん……」
「全然知らなくて。今思えば杏奈の様子がちょっと変だったのに」
「言えなかった私が悪いの」
「いいか。はっきり言う。
安西唯の腹の中にいる子の父親は俺じゃない」
巧はほんとうにはっきり言った。一言一言言い聞かせるような発音で。
思っても見ないセリフにポカン、とする。だがしかし、すぐに冷静になり、彼の無責任な言葉に苛立ちをおぼえた。
「あのね、避妊に100%はな」
「だって何もしてねえもん」
……なんだと?
脳内が停止した。まさかの返答だった、私の脳内シミュレーションの中でこの展開はまるでない。あれか、シークレットエンドか?
何もしてない、だと??
私は口を開けた間抜け面で巧を見つめた。彼はふうとため息をつきながら言う。
「とんでもねえ女だったなあいつやっぱり」
「え? いやでも、流石にそれは……だって本当にお腹大きかったし……あれ?」
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