2836人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
熱い彼の体温が心地よく、涙を誘う。
すべて一人で抱えて考え込むのが本当に愚かなんだとよくわかった。恋愛初心者はこれだからいけない。最悪の事態になるのが怖くて一歩を踏み出すことすらできなかった。
自分に正直にいなくちゃならない。欲しいものはちゃんと欲しいって言わないと、手に入らないんだ。
「うん、ありがとう。ちゃんと言えてよかった」
涙声で答えた私を、巧はさらに強い力で抱擁する。
安心感からか、一気に眠気が襲ってきた。巧の胸の中で眠ってしまいそうなくらいふわふわした感覚でいると、突然私を離した巧が立ち上がる。
はて、と巧を見上げると、彼はとんでもなく座った目でどこかを見つめていた。やや引くほど顔が怖い。
「た、たくみ?」
「安西唯と話す。杏奈も来い」
「え、う、うん。連絡先は聞いてるけど」
「安西唯の親も呼ぶ」
「え、安西グループの社長様を……!?」
「ああでも、少しだけ待ってくれ。全てが揃うまで」
私は首をかしげた。揃う、とは?
巧は腕を組みどこか一点を見つめながら吐き捨てた。
「俺はなんでも用意周到、やるときは徹底的にやるタイプでね」
最初のコメントを投稿しよう!