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苦苦しい顔でご両親は頷いた……かと思いきや、三人揃って満面の笑みで頷いた。唯さんが意気揚々と話し出す。
「そうなんです、実は! ほら、あの日の……ご連絡が遅くなってすみません、結婚なさっていたとは知らなくて。どうしてもこの子を産みたいと思っていたものですから」
「あの日、と言いますと?」
冷たい声で巧が尋ねた。唯さんは笑って言う。
「ほら、ここのホテルのバーで飲んだ日ですよ。覚えてらっしゃるでしょう?」
巧は無言でため息をついた。私は何も言えずただ黙って怯えている。
「子供もいるんですから、すぐに離婚なさって。まさか子供もいるのに私とは結婚できないとおっしゃるの?」
愛おしそうにお腹を撫でる唯さんを、巧は氷のような冷たい目で見た。そしてああ、と思い出したようにわざとらしくいう。
「あの日ですか。あなたが一人ほとんど裸で酒を飲み、爆睡した後それを置いて出て行ったあの日」
安西家の笑顔が固まった。
まさに動画を一時停止したかのような停止ぶりに、不謹慎ながら私はちょっと笑ってしまいそうになった。
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