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……さすがにそこまでは、私たちは首を突っ込めない。
巧が立ち上がったのを見て私も続いた。魂が抜け落ちてしまったような三人を横目に、私たちは並んでその場から立ち去っていった。
「……あっという間だった。あんなに緊張したのに」
家に帰って私は脱力して言った。信じられないほど緊張したけど、思えば私日本語喋ってない。全部巧が進めていた。
ネクタイを緩めながら言う。
「ああいうのは時間かけずにいかないと。勢いが大事。相手に悪知恵を思い付かせる時間与えちゃだめなんだよ」
「さすが……藤ヶ谷副社長」
「とんでもないのに巻き込まれたもんだよ。あの夜それを見抜いた自分を褒め称えたい」
巧はどしんとソファに腰掛ける。私は感心した目で見た。普段ちょっと問題多いやつだけど、いざと言うときは頼りになるな、なんて。
「でもまさかあんなにヤバい案件だとは思わなかったよ。人間が一番怖いって本当だな。俺は立場上そういうのに会う機会が多いかもしれない、杏奈も気をつけろ」
「はい……」
「あー疲れた」
巧は頭を強く掻く。セットしてあった髪が崩れて揺れた。天井を仰いだその姿がさっきのホテルでの巧とはまるで違って、私はつい笑う。
私だけが知ってる、家の中の巧。
笑われたことに気づいたのか、巧がこちらを見た。
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