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「何」
「ううん。嬉しいなって。その、ここを出ていかなきゃいけないかと思ってたから。ちゃんと帰ってこれて、巧と一緒にいれて嬉しいなって」
「……お前はほんとさ」
巧はどこか恥ずかしそうにして視線をそらした。その光景がまた、私の心をくすぐる。
彼は立ち上がり、私の前まで歩み寄ってきた。背の高い巧の顔を見上げると、優しい目で私をみていた。
「これからは、絶対に一人で抱え込むな。なんかあればすぐ俺に言って。隠し事はしないで」
「……はい」
「また俺がいない間に樹なんかを連れ込まれちゃ発狂するかもしれない」
「あは!」
「笑い事じゃない」
少し不満げに言った巧は、そのまま私にキスを降らせた。久しぶりのキスだった。私たちはなかなかそんなムードにすらなれなかったのだ。
柔らかな感触に心臓がおおきく音を立てる。
『隠し事はしないで』
そう巧と約束したところだ。
ほんとにそれを痛感した。前巧の誘いを断ってしまって気まずくなったのも、今回の騒動も、私がちゃんと自分の気持ちを言えないのが原因だった。
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