2838人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
全てをちゃんと伝える必要がある。それが、私に出来る誠意の示し。
何度か角度を変えてキスを交わしたあと、少し彼が離れる。その顔はいつだったか見た、野生っぽい顔だった。
ぐっと心が苦しくなる。
私はまだ巧に言えていないことがあるから
「……あの、杏」
「あのね。聞いてほしいことがあるの」
巧の呼びかけに重なるよう私は言った。
声が少しだけ震えてしまった。
「……え?」
「聞いてほしいっていうか、見てほしいっていうか……その、私の部屋に来てくれる?」
私の部屋、と言った瞬間巧が少しだけ目を見開いた。彼は未だかつて一度も私の部屋に来たことはないのだ。
無言でそろそろと二人廊下に出る。きちんと閉じられたそのドアの前で、私は深呼吸をした。
ちゃんと話さなきゃダメだ。あの日断ったのだって、この部屋のせいだったって、ちゃんと伝えないと。
隠し事はダメだって言われたばかりだから。
「あけ、て、ください」
「? は、はあ」
巧は不思議そうに首を傾げながらドアノブに手をかける。そしてついに、その禁断の扉が開かれた。
最初のコメントを投稿しよう!