ご挨拶

18/21
前へ
/382ページ
次へ
 いやいや、確かに必要なものだ。そういう契約だったんだし、別に変なことじゃない。ただなんというか、強引さと用意周到さが引いてしまう。まだようやくあっちのご両親に会ったばかりなのだが。  婚姻届はすでに記入済みだった。あとは私のみが書くだけ、という形。 「ず、随分と用意周到で……」  やや引いた声で言うも、彼はふんと鼻で笑って得意げに言う。 「当然。こう言うのはさっさと終わらせてしまわないと。ほら」  そう言って、私にボールペンを差し出した。 「え」 「あとは杏奈のところだけ。一応提出は、杏奈のご両親に会うまではやめとくけど、それが終わり次第すぐに提出する。あまり会う機会もないんだから時間があるうちに書いてほしい」 「あ、じゃあ次会う時までに記入しておきます、印鑑もいるし……」 「ほら印鑑。作っておいた」  怖! なんでこんなに全てのことが早くて準備しまくってるのこの人??  私はもはやドン引きした目で彼を見る。それでも巧さんは、余裕綽々な笑みで私を見ていた。 「杏奈、もう逃げられないよ」 「…………」
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3138人が本棚に入れています
本棚に追加