隠し事はもうしない

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 巧は自分で笑ってしまったあと、すっと席を立った。そして私の方まで回ってくると、隣の椅子を引いて腰掛ける。  私は不思議に思いながらその行動を黙って見ていた。  巧は私の隣でしばらく沈黙を流したあと、ポケットを漁る。そしてそこから出てきた物を私に差し出して、優しい声で言う。 「杏奈。結婚してほしい」  彼が持っていたのは指輪だった。  手にしていた箸を落とした。カランと高い音を立てて転がり床に落ちる。それを拾う余裕もないほど、私は呆然として小さな輪を見ていた。  巧は優しく笑いながら言う。 「ま、もうしてるんだけど。でも俺たちの婚姻は、契約上の始まりだったから」 「……」 「これは契約じゃなくて、一人の男としてのプロポーズ」  ただ呆然と、彼の顔を見上げていた。  私たちは戸籍上夫婦だ。  でもそれは愛のある結婚じゃなかった、ルームシェア状態から始まったこと。  その後恋に落ちた私たちは、付き合うところから始めようだなんてめちゃくちゃなルートを辿っていた。  それからも色々あって。大変で。  でも二人でやっとここまで来れた。 「……巧」
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