引っ越しました

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 そう悩みながら、とりあえず私は狭い箱に入れられた愛しい人たちを解放してあげるところから始めた。 「一段落ついたあ」  伸びをしながらそう独り言を言ってリビングへ足を踏み入れた時、ソファに座って何やら書類を読んでいる巧さんが目に入り一瞬止まった。いないかと思ってた。  彼はぱっと顔を上げて私を見る。長い足を組んで高級ソファに座るその姿は悔しいほど絵になっている。 「終わったか?」 「あ、うん。とりあえず」 「冷蔵庫に飲み物あるから好きなの飲んでいい」  それだけ短くいうと、彼は書類たちを適当にテーブルに投げる。目が疲れたのか眉間に皺を寄せていた。  お言葉に甘え冷蔵庫を開ける。喉が渇いてこっちにやってきたのだ。    中身のラインナップは素晴らしかった。水やお茶はもちろん、お酒にジュースに牛乳。それと、ちゃんと食材も入っていた。  とりあえずお茶を取り出し、グラスを探す。近くの食器棚を開くと、これまた高級そうな食器がちゃんとそろえてあったので唸る。なんでもかんでも準備がよすぎる藤ヶ谷巧。
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