引っ越しました

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 お茶を注いでダイニングテーブルに腰掛ける。なんとなく、彼の隣のソファに座るのは気が引けた。形式上夫婦だというのに。  冷えたお茶を喉に流し込むと、いろいろな質問が頭に思い浮かぶ。とりあえず、一つ目をぶつけた。 「あの、家賃ってどうすれば?」  私の声に反応して、彼がこちらを向く。やや呆れたように言われた。 「俺がそこいらの会社員から家賃をもらうと思うか?」  そこいらの会社員って。もっと他に言い方はないものか。  やっぱり性格に難ありのこの男。私は目を座らせて頭を下げた。 「はあ、どーも」 「あ、それと」  立ち上がり、一旦リビングを出たかと思うとすぐに戻ってきた。そして私の前に、黒いカードが一枚放られた。  ……ん? これは。  目を丸くして見つめる。 「必要な買い物は全てそれですればいい」 「え。えええ……」  一般人の私はみたこともない代物、噂のブラックカードというやつですか! やや興奮して恐る恐るカードを手に取った。さすがは藤ヶ谷巧、そこいらの会社員の私とはわけが違う。 「で、でもこんなもの私に預けていいの?」
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